蛯谷工芸の近江一閑張/湖南市ブランドストーリー

竹や木の骨組みに和紙を幾度も張り重ね、
柿渋や漆を塗って作られる「一閑張（いっかんばり）」。
蛯谷工芸謹製の近江一閑張は、竹を材料とする従来のものとは違い、
紙ひもを用いるため、丈夫で軽いのが特徴です。
高い技術力が必要な「近江一閑張」を代々作り続ける職人一家に迫ります。

幼少の頃より、初代で祖父の金介さん、二代目で父の豊さんの仕事を見て育つ。初代が現役引退後の現在は父と親子2人で伝統を守り続けています。初代が考案したという、紙ひもを用いて丈夫さと軽さを両立できる独自の技術が特徴の「近江一閑張」を継承。2人の師匠の元、伝統を守りながらも現代の暮らしに合った新しい作風を取り入れ、新たな魅力を発信する若き一閑張職人です。

蛯谷工芸
三代目蛯谷亮太さん

作業機械画像

歴史深い「一閑張」のルーツには様々な説があり、江戸時代に明から亡命し技術を伝来させた飛来一閑に由来する説や、農民が農「閑」期に作っていたことに由来する説などがあるそうです。元々は欠けた生活道具を修復するため、傷の部分に古い和紙を重ねて柿渋を塗って補強する、物を大切に使うための技術でした。やがて竹や木を使い一から型を作ることで、お膳やお椀などの様々な生活道具に姿を変え、工芸品として愛されるように。
竹や木を材料とする通常の一閑張と違う、蛯谷工芸の「近江一閑張」。初代・金介さんは40年以上、職人として携わりました。初代から技を引き継ぎ、およそ30年の間「近江一閑張」ひと筋の二代目の豊さんと、その伝統の技をさらに後世に伝えるべく継承する三代目の亮太さん。親子三代で伝統を守り、近江一閑張の魅力を全国へ発信し続けています。

元々京都で京人形の台座を作る職人をされていた蛯谷工芸・初代の金介さんは、平面の工程しかしない中で、立体的な工芸品を作ってみたいと考えた末に、「近江一閑張」にたどり着きました。一閑張という工芸品は江戸時代からありましたが、初代が考案したのは、型の素材に紙ひもを採用すること。これにより従来の竹や木よりも軽い一閑張を実現しました。その上、塗り重ねる和紙と紙ひもの固着度合いが高く強度が増し、剥がれにくくなるのです。伝統工芸品に独自の革命的発想が調和され、丈夫で軽く扱いやすい「近江一閑張」が誕生したのです。
伝統の技術を生かして、お盆や籠、箱など幅広く製作。手作りだからこそ、一つ一つの色・柄・形・大きさ等に少しずつ違いがあるのも特徴です。
また、紙を使用しているとは思えないほど重厚感のある見た目だけではなく、独自の特別色で別注した富山県の五箇山和紙も使用することでインテリアとしても優雅な雰囲気を醸しています。

編み、張り、塗りの3つの工程を職人の手により経ることで完成する「近江一閑張」。編みは長いテープ状の紙ひもを編み込むことをいい、自由度が高く、立体的で複雑な型でも成型が可能になります。
張りは、和紙を張る作業のこと。白い和紙を下張りした後、柄付きの特注和紙を上張りします。手すきの和紙は繊維が長く馴染みやすいため、網目を綺麗に出す事ができます。空気が入り込まないよう丹念に張る事で、破れにくく丈夫に仕上がります。
塗りは仕上げのコーティング作業で、柿渋塗りとウレタン塗りの二種類があります。柿渋塗りは防虫、防腐、撥水作用に加え、年月と共に色の深みが増すため、経年変化が楽しめます。ウレタン塗りは耐水性に優れ、水洗いが可能。お盆などの食器に最適です。塗りの工程を踏むことで、ささくれや摩耗しにくくなります。さらに仕上げの乾燥にかけることで、軽くて丈夫で長持ちする近江一閑張は出来上がります。

生まれた時から近江一閑張に囲まれていた三代目・亮太さん。幼少期は祖父と父に見守られながら、作業場で日々二人の職人技を目で追いながら育ちました。三代目になる前は、パティシエやバイク整備などの仕事をしていました。工芸とは異なるフィールドながら手仕事に携わったのは、祖父と父の影響で手仕事に興味関心があったから。違う世界で学んだ経験を生かして、若い視点で近江一閑張に新しい風をもたらしています。
亮太さんが大切にしているのは、伝統を守りつつ、時代の変化に沿って愛されるモノ作り。近江一閑張は自在に成型できるため、作ろうと思えば何でも作る事が出来るそうです。若い世代からも人気を集めたのは、コップやティッシュケースなど芸術性と実用性を兼ねそろえた新作。
天然素材のみで作られており、環境にも優しく、肌に触れてもかぶれず、人にも優しい暮らしに合う特別な逸品。伝統を刷新してきた近江一閑張の挑戦は、時代の変化に沿ってこれからも続きます。